2023/06/06 19:52

こんにちは。

パン工房クルール(Bakery Colorer)の店主です。

今日は、パンの発酵について書いてみようと思います。



 まず初めに、パンの発酵と聞くとみなさん何を思い浮かべますか?

「パンが膨らむこと」「発酵しないとパンは美味しくない」「発酵ってとにかく大事」答えは、、、全部正解です。正解ですが、もっと深掘りをしてみましょう。


 パンの発酵とは、酵母が小麦中の糖分(デンプン)を食べることによって、アルコール発酵を行い、そのアルコール(とても香りのよいガス)をパン生地のグルテンが包むことでパン生地が膨らみます。そしてこの「酵母」ですが、実は「乳酸菌」の助けがないと小麦中の糖分を食べることができません。つまり、『発酵する』ことは「乳酸菌と酵母」の2つが協力し合わないと成り立たないのです。もう少し詳しく話しましょう。



■乳酸菌とは

 乳酸菌は空気中に見えないですが、その辺に浮いています。乳酸菌とは、①細菌(微生物)の一種 ②特有の香味を持つ ③有害菌の生育を抑える作用を持つ(pHが低く酸性。それにより他の有害菌の生育を抑えます。)=つまりは、整腸剤としても使われる。 という大きく3つの特徴があります。


 

■酵母とは

 酵母も乳酸菌と同じく、空気中に見えないですが、その辺に沢山浮いています。酵母とは英語で「イースト」のことです。酵母と聞くとみなさん「天然酵母」をイメージされるのではないでしょうか?「天然酵母」とは結論、スーパー(市販)で売っているドライイースト、生イースト、空気中に見えないが沢山ある酵母たちのことを指します。え?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、学術的にもそういう括りになっているとのことです。<<<市販で売っているドライイーストや生イーストは人工的に作ったから「人工酵母」かと思っていた。。。>>>実は、そうではありません。市販のイーストも自然界(天然)の酵母を培養させたものなので、天然酵母と同じ括りになります。ただし、厳密に分けるのであれば、パン作りに適した酵母1種類を人工的に培養したものをイーストと呼び、複数の酵母が混ざったまま培養したものを天然酵母と呼ぶこともあるそうです。

 市販のイーストは、パン酵母に適したものを厳選して培養させたものなので、それによって安定的に簡単にパンを発酵させることができます。

 


 ここで疑問が生まれるのではないでしょうか? <<どうしていくつかのパン屋さんは、安定的にパンを発酵させられる市販のイーストだけでなく、自分でフルーツから作った「自家製酵母」を使ったり、そもそも手間ひまかけて自家製酵母を育てているの。。。?>> 

 その理由は、酵母がもつ『風味』にあります。この風味は、酵母によって違います(いちごの酵母ならいちごの香り。レーズン酵母ならレーズンの香り。と言った感じ)。自分のお店では、ワインができる手前のような風味になるレーズンの自家製酵母が好きなので、レーズンを軸に、さらに甘みをプラスする意味でイチジクを足し、酵母を作っています。当店ではこの自家製酵母と小麦粉を合わせて、『自家製発酵種=フランス語で(ルヴァン)』を作っています。このルヴァンの中には乳酸菌もたっぷりと入っています。いつも仕込みで使ったら、酵母液と小麦を継ぎ足しており、オープン以来ずーっと、うなぎのタレの様に継ぎ足しています。乳酸菌たっぷりなので、他の有害菌の生育も抑えてくれます。



 最後に、「乳酸菌のパン生地の中での働きについて」書きたいと思います。

乳酸菌がパン生地の中にある時、4つの重要な働きをしてくれます。


①小麦粉のデンプンを分解して、酵母の働きを活性してくれる。

 (乳酸菌が持つ「アミラーゼ」という名前のデンプン分解酵素が、パン生地内のデンプン(多糖類)を、酵母が食べれる大きさの糖の粒(ブドウ糖=単糖類)まで分解してくれる。<<母親と赤ちゃんに例えるなら、アミラーゼ酵素(母親)が食事(多糖類)を食べやすい様に細かく分解(単糖類)し、酵母(赤ちゃん)がそれを食べるようなイメージでしょうか>>。


②アミラーゼが多糖類を単糖類に分解してくれることで、生地中の甘味が増す。

 人の舌は、多糖類(デンプン)の状態では甘みを感じることができません。デンプンたっぷりのお米を砂糖のように甘い!と感じることはないですよね?

人の舌は、二糖類(ショ糖・乳糖・麦芽糖)や単糖類(ブドウ糖・果糖・ガラクトース)になって初めて甘みを感じることができます。つまり、アミラーゼがパン生地中の単糖類を増やしてくれるということは、人がパンの生地に甘みを感じやすくなるということに直結します。


③パン酵母単体では出せない風味を出してくれる。


④パン生地をつなげる役割を持つ「グルテン」を分解して、胃の消化吸収を助けてくれる。

 乳酸菌には「プロテアーゼ」というタンパク質分解酵素もあります。タンパク質=グルテンであり、このグルテンが分解されると、食す側にとっては消化されやすいパンとなり、胃もたれを起こしにくくなります。つまりは、「健康的で、美味しく楽しくパンを食べれる」に繋がると私は思っています。<<パンを作る側にとっては、パン生地のつながり(=グルテンのつながり)が弱くなると非常に成形がしずらいです。。。(汗 でもこれも全ては体と美味しさのためだと思って何も言いません。。。>>



 以上、長くなりましたが、今日のテーマである『パンの発酵について』、こんなストーリーがパン生地の中で毎回繰り広げられているわけです。とても興味深いですね。季節に合わせて今度は育てる酵母の元となるフルーツを変えてみるのも面白いと思います。いちごの時期はいちごの酵母を育てるなど:))) 楽しそうですね! みなさんも酵母、育ててはみませんか?


 

 ここまで長い文章をお読みいただき、ありがとうございます。今後とも、当店とパンそのものの成長をお楽しみにしていただけると嬉しいです。

店主

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『自家製発酵種=ルヴァン』 レーズンとイチジクで作った酵母液に小麦を混ぜて作ったもので、ワインの様に芳醇な香りのする発酵種です。温かいところに置くとすぐ酸っぱくなっちゃうので、冷蔵庫で保存しています。